父が肺病で寝ついたので、母の心配は大したものだった。十里も離れた都会から名医を迎えたり、新聞広告のあらゆる薬を取寄せてみたり、出入の人に頼んで鼈や鰻を絶やさなかったり、山羊を飼ってその乳を搾ったりして、出来るだけの薬や滋養分を与えたが、父の病気は少しもよくなる風はなかった。そのうち、村から三十里ばかり離れた所に、肺病に対する秘伝の妙薬があるということを聞き込んで、それを買いに自身で出かけたのである。
 其処へ行く最も近道は、まだ交通の開けない昔のことなので、四里の田舎道を歩いていって、それから汽車に乗って、その先がまだだいぶあるとのことだった。何しろ、その妙薬をのんで病気がなおったという村の或る古老が、抽出の中から探し出してきてくれた古い薬袋の裏の、怪しい処書の文字を頼りに、漠然と見当をつけて出かけてゆくのだから、まるで夢をでも掴むような話なんだ。そしてその妙薬なるものが、実に変梃なものだった。それを服用すると、二十四時間のうちに、体内のあらゆる黴菌が死んでしまって、その毒気や汚物が、一度に下痢と共に排出され、残ったのは腫物となって吹き出されるというのだ。今考えると、それは或る人間の脳
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