ろうが、夏の暑い中を毎日せっせと縫物をしていた。夜になると、口髭を生やした男がそれに加わって、誰の子か四五歳の男の子供まで出て来て、みんなで物を食ったり話をしたりしていた。その光景が電燈の光にぱっと輝らし出されるので、猶更ちっぽけな惨めなものに見えた。
所が、そういう隣家の生活を二階の窓から見てる感じが、自分自身の生活にもふと映ってきた。妻や子供と一緒に食膳に向ってる時、机によりかかって仕事をしてる時、縁側に寝転んで新聞を読んでる時、女中達まで皆で集って子供に花火をあげてやってる時、其他いろんな時に、ふとした心の持ちようで、今に屋根の何処かに穴があいて、そこから誰かに覗き込まれるとしたら、自分のこうした生活がどんなにちっぽけな憐れなものに見えるだろう、……と思うと自分がその誰かになって、自分で自分の生活を高い所から覗いてるような気持になり、何んだか惨めで見すぼらしくて嫌になってしまうのだった。
そこで僕は考えたのだ。高い所から人の住居を覗き込むと、どんな立派な生活でも惨めに見えてくる。所が一歩戸外に踏み出すと、街路にうろついてる乞食までが、どこかこう晴れやかなのびやかな影を帯びてい
前へ
次へ
全39ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング