だそうだった。でその夜彼は僕と連れになって、或はそいつの化けたのじゃないかと疑って、初めは用心して口も碌に利かなかったが、愈々堰の近くへ来たので、一つためしてやれという気で小便をしてみた。化物ならば一緒に小便をすることはない。が人間ならば大抵一緒に小便をするというのだ。
「お前さんが小便をしてくれたで、わしも安心しただよ。」
 そして彼は僕にいろいろ話しかけて、何処から来てどうして遅くなったかなどと聞いて、僕が尋ねようとしている友人の家を実はよく知ってるので、その家の前まで送っていってやろうと云い出した。どうせ化物に乗っかられる覚悟だったからと云って、その空車に乗ってゆけとも勧めてくれた。
 僕は何だか狐にでもつままれたような心地がしたが、それでも気持は落付いてきて、杉の古木が七八本立並んでる物凄い堰のわきをも、大して恐ろしい思いをせずに通り過ぎた。
 それにしても、夜道を連れ立って歩いていると、普通の人間である限りは、一人が小便をすればも一人も大抵小便をするというのは、一寸面白いじゃないか。君にもその気持が分るかね。
 なに、分らないが面白いって、初めて僕の話に興味を持ち出したね。じ
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