学校では、昔の蛮風が残っていて、裏面はともかくも表面だけでは、女のことを口にするのを卑劣だとして、その結果多少男子同士の風儀が乱れていた。と云ってもそれは重に口先だけのことで、実際はさほどでもなく、実行の方面はやはり女性に向っていた。ただ女性の方は誰も皆秘密にしていて、仲間での噂話は、誰彼は誰彼に目をつけてると、そういったことが重だった。
 こう云えば君は笑い出すかも知れないが、僕だって上級の或る男から目をつけられたことがある、この顔でね……。だがその頃は僕ももっと見栄えがしたものだよ。その代り僕の方でも、同級の或る男に目をつけていた………と云っちゃ語弊があるが、まあその男に好感を持ってたものだ。向うでも僕に好感を持ってることがよく分っていた。そして向うに云わせると、却って僕の方に目をつけてたと云うかも知れない。二人はよく運動場の隅で話し合ったり、互に往復したりしたものだ。二人共どちらかというと温和な方で、文学が好きで、感傷的だったのだ。
 え、実行はだって、馬鹿なことを云っちゃいけない。アクチヴにもパッシヴにも、一度だってあるものか。第一そういう頃の同性愛というものは、実に他愛ない馬
前へ 次へ
全39ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング