鹿げたもので、青春期の漠然とした憧憬の気持の上に立った空想で出来上っているので、実行なんかへまで進むだけの力もないし、それ自身実行を目指しているものでもない。云わば相手を空想の踏台にするだけのことだ。空想の対象は、ずっと遙かな曖昧模糊とした所にあるのだ。
所で僕には、互に好感を持ち合ってる男が同級のうちに一人いた。そして春の休暇に、一緒に四五日の旅行をする約束をした。僕からその男の郷里の家へ誘いに行って、そして一緒に登山するつもりだった。
するとその日、天気は幸によかったが、田舎の不完全な石油発動汽車が遅着したために、それと連絡してる本当の汽車に乗り後れた。そこの汽車がまた数少くて、二時間半も停留場で待たせられた。その上、向うの駅で下りると雷雨なんだ。もう日は暮れかかってくる。僕は不案内な土地に一人ぽつねんとして、全く途方にくれてしまった。
幸にも、客があって一台の馬車が出るというので、僕はそののろいがた馬車に五里ばかり揺られていった。がそれから先は馬車が行かない。友の家まではまだ二里余りあるという。もう日が暮れて二時間の余になる。星の光も見えない曇り空の闇夜なんだ。小さな宿場の
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