様子を、じっと見ていた。反感はないが、冷い眼付だった。古ぼけた紺の背広から、白い襯衣の襟をのぞかせて、毛襦子らしいネクタイを無雑作にむすんでるその様子が、以前よりも更に痩せている蒼白い顔にしっくり合って、若くなったようにも見える。そして黒のソフト帽だけだが、昔の通りだった。
「どうしたんだい、あれから……。」
 その時、村尾は曖昧な微笑を浮べて、島村の手をとって握りしめた。力のこもったその握手が、以前の村尾と異ったものを島村に伝えた。
「あなたに……逢いたいと思っていたんですが。」
 そして村尾はこんどは、何だか恥しそうな微笑をした。感情や言葉がどこか調子があっていないようだった……。
 ――ところで、これから先の二人の話を跡づける前に、以前の出来事を茲に物語るとしよう。そしてこの物語は可なり曖昧で複雑だから、村尾自身が島村に書き送った手記を骨子とし、筆者の註釈や補足を附して、出来る限り誤りなからんことを期したい。

 ……私はどうしても信子を愛することが出来なかった。なぜだか、いくら自分に尋ねても分らない。顔立も、教養も、私にとっては過ぎているくらいで、もし彼女と結婚するとしたら、幸
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