けがくっきりと際立ち、泊りを求めて帰る大きな荷足船の中からは、細そり煙が立っている。そういう時、船体全部に響くこの小蒸汽の機関の音は、何かしら小気味よい笑いのように聞えた。永代橋のたもとからこれに乗りこんだ島村は、久しぶりの楽しい気持で、暫く外に立って眺めていたが、二つばかりの橋の下をくぐると、いかめしい鉄骨の橋架に頭を押えられる気がして、船室の中にはいった。客がまばらで、ひっそりしていた。片隅の腰掛にかけて、うす汚れのした硝子窓から覗くと、船はすぐ河岸近くを進んでいたので、広い眺望を求めて反対側に席を移そうとした時、向うの、子供を膝に抱いてる女の先に、こちらを見ていたらしい顔をそむけて、水面に視線を落してる男の姿が、眼にとまった。黒いソフトをまぶかにかぶって、窓によりかかるようにしてるその横顔が、どう見ても村尾だった。島村は物にこだわらない呑気な性質から、一年間の年月も種々な事件もとびこして、その方へ歩み寄っていった。数歩のところで、村尾は彼を意識していたようにひょいと顔をあげて、彼の方を見た。彼はそれを笑顔で迎えた。
「やあ、暫くだね。」
 村尾は黙っていて、真向いに腰を下す島村の
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