間もなく先方を飛びだしてきて、二十五の今日まで家でぶらぶら日を送り、文学だの音楽だのをなまかじりしてる彼女のことだから、時々私のところへ遊びに来ることもあったが、母の仏壇へ花をもって来るなどとは、余りに殊勝すぎた。
 日曜日の午後のことで、暖い春の日差を受けてる縁側で、私たちは話をした。八つ手や檜葉や躑躅などが植ってる何の風情もない狭い庭に、青い雑草があちらこちら生え出していた。女中に草を取らしたらいいじゃないの、と彼女は云った。私はただ苦笑したが、その時ふと、反対のことを考えた。庭に雑草を生えるまま茂らしたら面白いだろう。名も知れぬ小さな白や赤の花が咲いたらどうだろう。いろんな虫もとんでくるだろう……。そういう想像を私は、自然に逆らわないで生きるという形式で述べた。すると、彼女は軽蔑したように鼻の先で笑った。雑草の繁茂なんかの中に自然を見出すのは、なげやりのだらしない生活の口実にすぎない、と云うのだった。そういう自然は意志の喪失を意味するのだと。私は或はそうかも知れないと考えてみて、いやな気がした。そっと窺ってみると、彼女の眼は青葉の反映を受けて無邪気にちらついていたが、中高の先の尖
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