乱視めいた眼付に色艶が出て来て、それと共に、太い頸筋が目立ち、しゃがれた声がなおかすれて、この二三年すっかり堅くしてるという、その肥った世帯じみた様子に、何か濁った汚ならしいものが浮んできた。私は何だか気が引けて、後で逢う約束をして、彼女を帰らした。それから室に戻って、平然と事務を片付け、なるべくゆっくりと会社を出た。そして彼女と待合せる場所が、なるべく会社から遠いというとっさの思いつきで、浅草の雷門前の仲店の通りということにきめたのを、自分で苦笑したのである。
その頃、私は特殊な気持で生きていた。一方では、千代次の死後、その真心の幻を守り続けると共に、もう何如なる女にも心惹かれないという自由な朗かな自信とも決心ともつかないものを持っていて、それが逆に、あらゆる男女関係を軽蔑させていた。要するに、清濁を超えた宙に浮んだ気持なのである。それからまた一方では、経済的にひどく窮迫していて、何かしら漠然たる反抗心が湧いていた。もう浪費することもなく、また浪費しようにも出来なかったが、方々にたまってる不義理の借金や金貸からの負債などは、時間が経過するほど益々重くのしかかってきて、それを一挙に整
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