すぐに……。」
「二十円ですって……。」
「ええ、それは大変安くなってるんです。早く買わないと、他にも買手がついてるんです。是非いる本なんです。」
「そんなに急いだって……。」
「いえ、急ぐんです。……買いたいなあ。」
 堪らないような風をして、室の中をとんとんと歩き廻ってやった。
「そんなにほしいものなら、お父さんに話してあげましょう。」
「え、お父さんに……。」
 しまった……。父の存在をすっかり無視していたが、丁度父が家にいる日だった。……だが……まあいいや。
 やけ糞に落付いてきて、火鉢の側に屈み込んだ。ぼんやりして、淋しかった。
 そこへ、父がわざわざ書斎から出て来た。
 困った、困った……という気で縮こまっていると、父は仕事疲れらしい伸びをしてから、煙草を吸い初めた。
「欲しい書物があるそうだが、どんな書物だい。」
 びくりとしたが、神妙そうに云ってやった。
「英語の本です。中世紀の風俗を調べたもので、素敵な※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]絵が沢山はいっています。ロンドンで出たんですが、絶版になってるから、注文してもないんですって。そ
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