、どいつもこいつも醜かった。通り過ぎる男共は、馬鹿げた顔をしていた。……だがそんな奴、俺は天下に一人も用はないんだ。
痛む胸に彼女の眼付を秘めて、一心に想い耽って、当もなく歩き続けた。
犬の仔が幾匹も面白そうにふざけていた。
決心をきめて、眼を据えながら家に帰ってきた。母の出よう一つでは、こちらにも覚悟がある、と思っていた。
ところが……口元に笑みを浮べて、やさしい眼付で迎えられた。
「気分はどうなんです。」
「何でもありません。」
不機嫌にぶっきら棒に答えたつもりだったが……。
「どうしたんです。面白そうに……にこにこした顔をして……。」
びっくりして、きょとんと首を傾げてみた。
「何か嬉しいことでもあるんですか。」
張りつめていた気が弛んで、その拍子に、ふいに、飛び上りたいほど嬉しくなった。
「愉快なことがあるんですよ、お母さん。」
とんとんと歩き廻ってやった。それが自分でも変で、ゆっくり考えなければいけないと思いながら、何にも考えられなかった。計画してたことだけがすらすらと口から出た。
「めっけ物をしたんです。素敵な書物があるんです、古本屋に。……二十円下さい、
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