入れて下さらないんですよ。」
 恒夫は起き上って、祖母の方へ向き直った。
「それ何のことですか、お祖母さん。」
 祖母は眼をしぱしぱさした。
「あなたはまだ何にも知らないんですか。」
「何を……。」
「お母さんから何とも話がありませんでしたか。」
 恒夫は何とも答えないで、祖母の顔を見守った。見ているうちに、少し分りかけてきた。「じゃあ僕に兄弟があるんですね、お祖母さん。夢にみたりぼんやり考えたりしてたことが、本当だったんだな。ねお祖母さん、それは僕の兄さんですか、弟ですか、妹ですか……そして何処にいるんです。」
 祖母は急に気が挫けたようになって、その話を避けたがった。然し恒夫は承知しなかった。嵩にかかって祖母へ尋ねかけながら、もしその話をはっきり聞かしてくれなければ、自分を愛してはいないんだ、というようなことまで云った。すると祖母は、誰にも洩らさないという約束をさした上で、大体次のようなことを話してくれた。
 恒夫の父と母とは、結婚して五六年後まで子供が出来なかった。所へ不意に恒夫が生れた。大変な喜びだった。祖父なんかは、殆んど一日中赤ん坊の側に坐り通して、女中達を叱り飛ばしていた
前へ 次へ
全33ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング