は尋ねかけた。
恒夫には何時だって構わなかった。
「お母さん達ももうじきでしょうよ。」
その言葉の語気に、恒夫は祖母が自分を憐れんでることを感じた。と同時に、自分のうちにも祖母を憐れむ情があることに気付いた。何だか喫驚《びっくり》して眼をくるくるさして、頭をねじ向けて見ると、祖母の眼がいつもより多く濡みを帯びてるようだった。
「せめて今日だけでも、あの子を来させるとよかったんですがね。……私がいくら云っても、お祖父さんが頑固なことばかり仰言るのでね……。」
「え、お祖父さんが……。」
「それもね、理屈から云えば尤もなんですよ。たとえ血統《ちすじ》はどうだろうと、立派に他家の子供となってるうえは、それをわざわざ呼び寄せて、昔のことをほじり出すのは、よくないことだ、両方の気持を悪くさせるだけだ、とそう仰言るので……。それにしたって、もう十三年も、十五六年も前のことですから、別に差障りはなかろうと、私としては思ったのですけれど……そしてあなたにしたって、一人っきりよりは、表立って兄弟を持った方が、いくら心強いか知れないのに……それをお祖父さんは、得手勝手な考えだと仰言って、どうしても聞き
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