笑しかないよ。」
そして二人はきょとんとした顔を見合った。
そんなことを話して歩いてるうちに、何処へ行っていいか分らなくなったが、ふと思いついて、植物園へ行ってみた。
桜の花が咲き揃っていて、子供や女の人達がきゃっきゃ云って遊んでいた。二人はその側を通りすぎて、ずっと奥の池の上の、躑躅の間の芝生に坐った。南を受けた斜面なので、足を投げ出してじっとしてると、うとうとと眠くなるような暖かさだった。そしてそこらの藪の中には、蛇や蝦蟇や蛞蝓などがのっそりと匐い出していそうな、もやもやとした温気だった。池にはもう鯉が出てると見えて、麩や煎餅を投げてやってる娘達もあった。
「僕はね、」と恒夫は云った、「何処かに自分の兄弟がいるような気が、いつもしてたんだよ。何処か僕の知らない処に、兄や姉や弟や妹がいて、それにひょっくりめぐり会う、そんなことをよく夢にみたり考えたりしたよ。するとやはりそうだったんだ。君にめぐり会ったんだ。ひょっとすると、僕達の兄や姉や妹なんかが、何処かにいるかも知れない。君にはそんな気はしないの。」
「だって、お父さんは若いうちに死んだんだろう。」
「でもね、お父さんは方々へ
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