肩先に飛びついた。B君は不安に駆られて、犬を一日監禁した上、家畜医師の往診を求めて、少くともB君自身の心の中では、人の物笑いの種をまいた。
 第三は、同類として動物に親しむ態度だ。――C君の家の庭に、よく大きな蟇が出た。朝は遅くまで、夕方は早くから、そして雨の日は殆んど終日、植込の下影や金魚池のほとりに、縞のはいった疣だらけの身体を、のっそりと据えている。それが、C君にだけは不思議に馴れていた。彼は蟇の近くに屈みこんで、いつまでもじっと顔を見合せてることが多かった。捕えるのでもなければ、食物を与えるのでもない。どんな忙しい時でも、蟇を眺めたら最後だ。呼んでも返事をしない。蟇と同じように、無言で不動で、時間を忘れてしまっている。ところが、その蟇がどういうものか、いつしか姿を見せなくなった。それでも、C君は別に蟇を探し廻るでもなく、悲しむでもなかった。そして時折、やはり蟇がそこにいるもののように、夕方など庭の中にじっと屈みこんでることがあった。その姿が、彼の細君が不気味そうにまた可笑しそうに話したところでは、丁度大きな蟇のように見えるのである。そんな時、彼は屹度、蟇と同じようなことを考えて
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