かった。云わば彼は、瞬間的に愛し、瞬間的に憎み、そして始終気にしていた。それはヒステリー女の愛だった。奴隷の美女に対する暴君の愛だった。が鸚鵡は奴隷にはなりきれなかった。主人の神経を反映した鸚鵡は、非奴隷的な神経の働かし方をした。A君は遂に鸚鵡を絞殺してしまった。
 第二は、優者として動物に臨む態度だ。――B君は、純血とまではいかないが可なり立派な土佐犬を飼っていた。屡々散歩に連れて出た。友人が来ると、わざわざ愛撫の様を見せてやった。犬を見る彼の眼は、いつも穏かに微笑んでいる。その愛情にむらがない。隙な時には、長時間を割き与え、忙しい時には、短時間を割き与える。ただ彼の唯一の不平は、犬が時によって、余りに親昵だったり冷淡だったりすることだった。狆のように戯れかかられる時には、眉をひそめ、狼のように冷視される時には、好餌で誘った。云わば彼は、狼に狆の眼付を持たせることに、或は狆に狼の体躯を持たせることに、誇りを感じていた。彼の愛は、劣者に君臨する優者の矜持的な愛だった。がその逞しい猛犬は、狆と狼との中間の奉仕の度合を守ることが困難らしかった。主人が縁側にねそべって新聞を読んでいる時、その
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