高原で見らるるすぐ手に取らるるような低い空が、秋の澄み切った冷やかな空が。そして私の下にはすぐ大地がある、草木を枯らしまた芽ぐます黒い土地が。顧ると、小さな甲虫が私の顔のすぐ側に這い出している。じっとしていると、それは私の着物に這いつき、肌に這いよってくる。ただ私の方が、彼等よりいくらか温い肌をしているのみである。
戦場ヶ原の水は多く中禅寺湖の方へ吸い取らるるので、多くの盆地に見るような湿気が少い。そして草は高く伸びて、牛の群れが戯れるによく、羽の美しい甲虫が這い廻るによく、人の寝転ぶによく、鳥が巣くうによい。じっと寝転んでいると、すぐ顔の上を小鳥が空に舞い上って囀っている。
そうして私は秋の澄み切った大気のうちに、草の上に横わって長い間じっとしていた。そして私の血管のうちには古い田野の神の血が流れ、私はもはや人間の兄弟ではなく、凡ての生けるもの、凡ての事物の、兄弟であった。けれど、ふと立ち上って、広い高原の上を見渡したとき、私の眼は何を探し求めたか?
私は牛の群を見た、牛飼の姿を見た、また遠く一軒の茶店の藁屋根を眺めた。そして顧ると、自分の心が震えていた。秋の透徹した大気の中に
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