の眼を刺戟した。
「なんにも、尋ねて下さいませんのね。」
「尋ねるって、いったい、なんのことなんです。」
「昨晩もちょっと申しましたでしょう、塚本のこと。」
「だって、あなたはまだ、なんにも話して下さらないし……。」
「それでは、お考え下さいましたの。」
「考えましたが、僕には、事情がよく分らないし……。」
「あなたにとって、不愉快な話だってことはわかっております。けれど、愛情がおありでしたら、心配して下すってもよろしいと思いますわ。」
「そりゃあ、心配していますよ。然し、いくら心配しても、どうにもならないし……。」
「成り行きに任せると仰言いますの。」
「いや、なんとか打開しなければなりませんがね……。」
「あなたのお気持ちを、今日は、はっきり聞かせて頂けませんか。」
「それは、前から言ってる通りですよ。」
 陰欝な気分が次第に苛ら立ってくるのを、木山はむりに抑えた。そして酒を飲んだ。由美子も口を噤んで、猪口を手にした。
 もともと、ちょっとした火遊びみたいな軽い気持だったのが、次第に深みへはまり込んだのである。肉体の関係がついたのがいけなかった、青年同志のようにぱっと燃え立つのでも
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