なく、老人同志のように心底から寄り添うのでもなく、ただじりじりと互に喰い込んでいった。そこへ、別居していた塚本が、愛人と別れ、自家へ帰って来るという事態が持ち上った。素人のくせに手を出した漁業に大失敗をして、危く倒産は免れたが、家産の大整理をしなければならなくなったものらしい。帰って来れば、自然、由美子と同棲することになる。由美子と木山との仲は、塚本もうすうす察知しているだろうが、元来女というものを軽蔑しきってる彼のこととて、どういう家庭生活になるか分らないのである。それが怖い、と由美子は言った。塚本が引越してくる期日は、まだはっきりしなかったが、近いうちにとの通告があった。その通告は、由美子に覚悟を強要するものだったのである。
彼女は眼を見据えて木山に言った。
「あなたに愛情があるなら、家を出てしまえと、なぜ仰言って下さいませんか。わたしは、その一言が、あなたから聞きたかった。」
「それは、愛情とは別問題ですよ。家を出てから、どうするつもりですか。」
「わたし一人なら、どうにか暮してゆけるでしょう。あなたに御迷惑はかけません。奥さまに御迷惑もかけません。」
「金銭のことを言ってるん
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