へ行きましょう。」
「お伴しますわ。」
 それだけで二人は外に出て、タクシーを拾った。
 春の家は、戦災から復興したばかりのわりに閑静な一廓にあった。山茶花科の常緑樹を主として植え込み、空池をあしらった庭、その一部を袖垣で仕切って、濡れ縁をめぐらしてある奥の室には、まだ炬燵が拵えてあった。二人には馴染みの深い室である。女中も顔馴染みだった。
「お誂えは……。」
「第一に酒、あとは何でもいいよ。」
 木山の眼になにか陰欝な影があった。塚本夫人は障子の腰硝子越しに外を眺めていた。木山は煙草を差出した。
「今日は、煙草はどうなんです。」
 塚本夫人は眼を向けた。
「いや、煙草のことですよ。たくさんお吸いになる時は、御機嫌のよい時で、あまりお吸いにならない時は、御機嫌のわるい時だと、僕が言ったでしょう。今日はどちらなんです。」
「冷淡な仰言りようね。そんなら、やけに吸いましょうか。あなたは、お酒をやけにおあがり下さい。」
 もうここでは塚本夫人ではなく、ただの由美子だった。コートを脱ぎすて、膝を少しく崩し加減に坐り、帯の刺繍がやたらにぴかぴか光っていた。その刺繍と同じように、彼女の視線が、木山
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