そうだとは、親しい仲間の認めるところだったのである。そして木山の近頃の怒りの虫を、そのことと結びつけて考える者もあった。見ようによっては、最近、塚本夫人も落着きを失いかけてるらしい点があった。
 その晩、塚本夫人は真先に帰っていった連中のうちの一人だった。そして木山は、最後まで居残って酒杯を手にしてる連中のうちの一人だった。

 木山の事務所は、銀座裏の小さな建物の三階にあった。事務所といっても、彼が主事嘱託という名義で関係してる近県の小新聞の、東京連絡所を兼ねたもので、所員には、老若の男二人と、女が一人いた。木山は週に二日か三日、新聞社の方へ出張するので、いろいろと多忙だった。多忙なのを自慢にしてるようでもあった。
 然し近来、なにかしら大儀らしい疲労の色が彼に見えてきた。それが時として、所謂怒りの虫となって爆発することもあり、或いは漠然として瞑想のうちに沈潜することもあった。
 約束通り、塚本夫人が事務所へ訪れて来た時、木山は仕事を放り出してぼんやり考え込んでいたが、ふいに眼が覚めたように立ち上った。
「急ぎますか。」
「え。」
 夫人は聞き返した。
「時間がおありでしたら、春の家
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