の音楽会に出ることになってる。あれが、僕の姪に当るものだから……。」
「あ、切符か、何枚でも引き受けるよ。」
「いや、切符のことじゃないんだ。なにしろ、初めての晴れの音楽会に出ることだから、好評を得さしてやりたいんだ。どの新聞社でもいいから、音楽批評を担当してる記者に、君から、その、適当に口を利いといてくれないかね。」
「ああそうか。そんなことなら、あいつがいい。いつもでたらめな音楽批評ばかりやってる。そら、君も知ってるじゃないか。ええと、そら、あの男さ。」
 木山は額をとんとん叩いた。
「君も知ってるじゃないか。あの若い男さ。ええと、そら、いつもぱちぱち目ばたきばかりしてる、色の白い、髪の毛を長く伸した……。」
「ふーむ、誰だい。」
「君も知ってるじゃないか。あの男……何とかいった……おかしいなあ、喉元まで出かかってるんだが……。」
 木山はまた額を叩き、立ち上って、小首を傾げながら歩きだした。林は苦笑したままそこに残された。
 木山が控室の方にはいりかけると、そこでお茶を飲んでいた数人の中から、塚本夫人がつと立って来て、彼の腕を捉えた。そして囁いた。
「明日、午後、事務所の方へ伺い
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