音がするなんて。胃袋が瓢箪みたいにくびれたんでしょうか。」
八重子は眉間に皺を寄せていた。
木山は頭を拭きながら言った。
「ばかな。神経のせいだろう。」
「神経のせいにしても、そうなったら、どうなんでしょうね。わたくし、ぞっとしますわ。」
「だから、医者にみせなさいと、いつも言ってるじゃないか。」
「あなたがおみせなさるなら、わたくしもそうしますわ。あなたの方こそ、きっとどこかお悪いんですよ。寝汗をおかきなすったり、頭から汗をお出しなすったり……。」
木山はいやな顔をして口を噤んだ。何度も繰り返されたことだったのである。木山が医者にかかるなら、自分も医者にかかる、さもなければ……と八重子は主張した。主張というほど強いものではなかったが、繰り返されると、なにか頑迷なものに感ぜられた。そしてそのつど、寝汗だの頭の汗だのが持ち出されるのである。
「ほんとに、医者におみせなすったら……。」
木山は腹が立ってきた。
「それより、胃袋の中のごっとんごっとんの方が先だろう。僕も、動悸がどっきんどっきんしたら、医者にみせるよ。」
言ってしまってから、木山はますます不快になった。実際、脈搏が早
前へ
次へ
全25ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング