でも、あなたのおよろしいところへ。」
「よろしいところって、そう急には見つかりませんよ。」
「しばらくの間なら、宿屋住居だって、ホテル住居だって、構いませんわ。それぐらいのお金は、わたし持っていますから。」
「然し、その先が問題ですよ。」
由美子はきっとなって、木山を見つめた。
「木山さん、わたしの眼をじっと見つめて下さい。そして、本当のことを言って下さい。」
木山は彼女の眼を見つめて言った。
「僕はあなたを愛しています。」
「それだけ。」
「それ以上に何がありますか。」
「あなたの仰言るのは、言葉だけですわ。」
「では、どうしたらいいんです。」
彼女は上目がちに眼を宙に据えて、内心に思いをこらしてるようだった。それは暴風の前兆のようだった。木山は炬燵布団に顔を伏せた。
≪俺がいま、彼女を抱きしめてやったら、彼女の心はすぐに和らぐだろう。然し、そのことがいったい何だ。俺自身、自分の肉体に愛想がつきてるじゃないか。彼女を抱いて寝ながら、俺は夜中によく汗をかいた。かりに、アルコールが体内にぱっと燃え立つ、そのせいだとしても、見っともなく、薄汚いじゃないか。汗の臭気ほど下等なものはない
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