っそり萎びた感じがすることもあった。便通が甚しく不整だった。食慾も不整で、而も次第に減退してゆくようだった。飲酒慾だけは常に旺盛だった。物忘れが甚しく、時によると記憶全体がぼーっと陰った。全身にいつも倦怠感があった。注意力が散漫だった。これはいったいどうしたことか。肝臓にでも異変があるのかも知れないぞ。こんな肉体はもうたくさんだ。≫
木山が呼鈴を押すのを見て、由美子は心配げに眉根を寄せた。
「またお酒でしょう。もうこれぐらいになすったら。お身体がわるいとか仰言ってたじゃありませんか。」
「なあに、大丈夫ですよ。日本酒だけなら、いくら飲んだって……。」
≪お前が要求するのは、酒、酒、ただ酒だけなのか。≫
「それでは、ほんとに愛情を育てていって下さるおつもりですね。」
「そうです。いま言った通りです。」
「それでも、わたしが塚本と同じ家に住むとなると、やはりおいやでしょう。」
「そりゃあいやですね。」
「では、どうすればよろしいの。」
「あなたの決心次第です。」
「わたしの決心はもうきまっていますの。あなたさえ許して下されば、家を出てゆきます。」
「家を出て、どこへ行くんです。」
「どこ
前へ
次へ
全25ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング