蜘蛛
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)概《おもむき》
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蜘蛛は面白い動物である。近代人的な過敏な神経と、偉人的な野性と、自然的な神秘さとを具えている。
近代人の神経は、何かしら不健康で不気味である。本物の動物的なものから根こぎにされたような趣きがある。運動的知覚がひどく鈍く、感情的知覚がひどく鋭い。この運動の方面の知覚と感情の方面の知覚とが、不均衡になればなるほど、益々病的に不気味になってゆく。――蜘蛛を見てもそういう感じがする。始終巣の真中にじっとして餌物を待ちすましてるところは、苛ら苛らしながら日向ぼっこをしてる近代人の俤がある。そして巣の僅かな微動にも緊張した神経が震えおののく様は、単なる触知でなしに、感情的知覚の域にまでふみこんでる概《おもむき》がある。あのものぐさと敏感さとには、何かしら病的な不気味なものがある。
偉人は凡て野性を有するというのは、否、野性を有していなければ偉大な仕事は出来ないというのは、私の持論である
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