が跋扈して女郎蜘蛛が滅びるということは、淋しいことである。
 田舎に旅をして、静寂な自然と素朴な人事とに接する喜びの大半は、都会人としてそれらに接するところにあるということが、一面の真理であるとするならば、都会に住んで庭に蜘蛛の巣を張らして楽しむのは、野人としての楽しみであるというのも、一面の真理かも知れない。然しながら、蜘蛛を嫌う者は性格的に弱者であり、蜘蛛を好む者は性格的に強者であると、そういうことが云われないものだろうか。偏奇な趣味の対象としては、蜘蛛は余りに多くのものを持っていると、蜘蛛好きな私は勝手な考え方をしたいのである。



底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
   1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2006年4月23日作成
青空文庫作成ファイル:
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