ら借金がふえるし、先の見込もないから、一緒に死にましょうと、かねての約束を持ち出しました時、あなたは何と御返事なすったか、覚えていらっしゃるでしょうね。
 男――覚えてるよ。事情が打開されるまで待とうと言った。
 女――そしてひどく怒って、殴りつけなすったわね。だからあたしも、かーっとなって、あなたのところを飛び出したけれど、それでも待ちました。
 男――いや、お前は待たなかった。
 女――いいえ、待ちました。この狸石に聞いてごらんなさい。あなたがこの石をほんとに好きだってこと、どうかするとあたしよりも好きだってこと、よく分っていました。だから、この石のところまで逃げて来て、あなたが追っかけていらっしゃるのを待ちました。けれど、いくら待っても、あなたは後を追っていらっしゃいませんでした。最後にあたしは、一つ二つと……十の数を数えました。一回数えてもだめ、三回に延して数えてもだめ。五回まで数えました。それでもだめだったから、泣きながら立ち去りました。
 男――いや、僕は追っかけて来たんだ。十を五回数えたんなら、なぜ、七回数えなかったんだ。なぜ、十回数えなかったんだ。そうしたら間に合ってい
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