から、顔の色艶に変化が激しく、皮膚が美しく冴えて澄んでることもあれば、醜く濁ってくすんでることもあるが、それとは別に、気分はたいてい明るかった。何かしら統一のとれない感じを私は受けた。そのことが却って私を惹きつけた所以かも知れない。
私たちは同僚の目を避けて、映画を見に行ったり、コーヒー店にはいったり、郊外散歩としゃれたり、彼女の室で酒を飲んだりした。甚だ通俗的でみみっちいと言えばそれまでだが、言い換えれば破目をはずすことがなかったのだ。
一方では、私の借金政策はうまくいった。返済期日を厳守したため、借金をしながら却って信用を得たとも言える。黒川は私に対してやはり誠実で、いろいろ指導してくれたりした。最初に少しく無理算段しただけで、黒川の手に託されてる私の資金は次第に殖えてゆき、入用な小遣はいつでも引き出せるようになった。使うことばかり急いではいかん、と黒川は私をたしなめた。
万事が調子よく進んでいった。私は至極安泰だった。大望や野心がなかったからだ。そして自分の分を守って中道を歩いたからだ。私は全くのところ程好い人間なのである。そして程好い生き方をしたのである。程好い人間が程好
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