い生き方をするのは、何の悪いことがあるか。
ところが、おかしなことが起ってきた。
黒川のところには、以前の仕事の関係上、いろいろな闇物資が持ち込まれることがあった。それが時価よりは遙に安いのである。その中で、靴下とかシャツとかいう日用品の、而も数量の半端なのを、私は時折、譲り受けることにしていた。妹にも少し買ってやった。薄茶のウールの洋服地があったので、スーツ一着分を京子にも買ってやった。その新調のスーツを着た京子は、これまでの黒ズボンの姿に比べると見違えるほど立派になった。それが人目を引いたものらしい。
京子には、女事務員の仲間が数人いる。彼女等の中には、女特有の鋭い勘で、私と京子との関係を気付いてる者がいたようだ。私の男の同僚の中にも、私たちのことをうすうす気付いてる者がいたらしい。それでも、別に問題になるほどのことではなかった。そこへ突然、京子の新調の洋服だ。男にとってはどうでもよいことだが、女にとっては大問題である。京子は仲間たちから新たな好奇の眼で見られ、直接の揶揄まで浴びせられた。京子の方では上手に出て、私からの援助を平然と匂わしたと見える。
その波紋がどう拡がって
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