いったかは、私には分らないが、間もなく私の方へも打ち返してきた。
会社からの帰途、中尾が私を追っかけて来て、顔馴染みの酒場へ誘った。そして焼酎を飲みながら、探りを入れてきた。それも私に対する好意からのことであるから、私にとっては却って厄介なのである。
「君はいろいろな人から金を借りてるらしいが、それほど困ってるようにも見えない。いったいどうしたわけなのか、打ち明けてくれないか。言いにくいことだったら、無理に聞こうとは思わないが、少し心配になるよ。」
「いや、簡単なことだ。」
伯父からの仕送りの約束がとかく後れがちなので、その間のつなぎに借金をするのだと、私は説明した。伯父という架空の人物は常に使っているので、省略するわけにはゆかないのである。
「然し、借金の数が次第に殖えてるらしいじゃないか。現在、幾人ぐらいから借りてるんだい。」
その言葉から察すると、私の借金はもうだいぶ知れ渡って、一般的な話題ともなってるらしい。然し、期日に間違いなく返せばいいわけなのだ。私はそれを言った。
「うむ、それはそうだがね。僕に対しても君はそうだったし、約束を違えたことは一度もないらしい。だが、遂に
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