はどうにもならなくなるよ。僕はそれを心配してるんだ。行き詰まりの日が必ず来る。その時は、どうするんだい。」
「自殺か犯罪か、と君は考えるだろうが、大丈夫、心配はいらんよ。」
 中尾はぎょっとしたように私の眼を見つめた。自殺か犯罪か、それを彼は想像したに違いないし、他にも同様な者がいるらしい。然し私のような程よい人間に、そんな大それたことが出来るものか。中尾は突然話をかえた。
「立ち入ったことを言うようだが、あの三上京子ね。彼女に、君は貢いでるか搾られてるかして、だいぶ金を使ってるという噂もある。これは注意しなけりゃいかんね。」
 私のことが問題になったのはそんなところからだろうと、私は直ちに感じた。これは全くまずい。私は嘘を言った。彼女に金を借りたことがあるので、御礼心に洋服地を贈っただけで、他意はないし、第一、女に対する礼は厚くしなければならない、などと言いながら、私は少し冷汗をかいた。中尾は信じかねるように、そして不満そうに、焼酎をあおった。
「いろいろ噂にも上ってることだし、用心しなくちゃいかんよ。」
 そのようなことで、結局あやふやに終った。私の方では、借金の整理方法もつきかけ
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