つ破綻を来すか分らない状態にある。破綻を来して、どんな不正なことを働くか分らないし、どんな犯罪を行うか分らない。そういう男との交際は用心しなければいけない。殊に、そういう男から何等かの世話を受けてるとすると、これは一身の破滅になる。既にいろんな噂が飛んでいる。噂はまあ噂として、今後のことに気をつけ、立ち直る覚悟が肝要である。とにかく、私のような男には充分警戒を要する……。
 それを聞いても、私は別に驚きはしなかった。ただ、余計なお説戒だと思った。私が不正や犯罪を働き得るほどの者でないことは、私自身がよく知っている。会社の中には現に、いろいろな不正が行われている。関係方面に為されてる贈賄や収賄、物資の横流し、不正な取引などが、或は会社の名に於て、或は個人の名に於て、ずいぶん行われている。殆んど公然と話題になってるものさえある。それらのこと、そしてそれらの人々は、いったいどうなんだ。私の方は何も悪いことはしていない。金は借りても期日には返すし、些少ながら謝礼もしている。京子とのことだって、無理に言い寄ったわけではなく、謂わば自然の同感合意に依ることである。それらすべてに於て、私はつつましく
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