く和服を着ていて、よそよそしい丁寧な態度で私を迎えた。私がいつも飲むことになっている通りに、紅茶とウイスキーとを出した。チーズと果物が添えてあった。気重い沈黙が続いた後に、彼女は言い出した。
「あなたはわたしに隠していらっしゃることがおありでしょう。それを、すっかり聞かして下さいませんか。」
「いったいどんなことなの。」と私はそら恍けた。
彼女は私の顔をじっと見た。
「会社のいろんな人から、お金を借りていらっしゃるでしょう。」
「ええ、借りてるよ。」
私は無雑作に頷いてみせた。
「それを、なぜ隠していらしたの。」
ばかげた問いである。人に金を借りてることなど、隠すも隠さないもない、どうでもいいことなのだ。わざわざ吹聴するほどのことでもないのだ。ところが、そうでないと彼女は言うのである。彼女のことで金がかかって困るのだったら、別れてもよろしいと、そんなことまで言い出す。どうも話の筋が通らない。
「君こそ、何か隠してるんだろう。」
突っこんでみると、彼女は打ち明けた。主任の戸田に呼ばれて、さんざん注意されたとのことだ。その戸田の説によると、私は数十人の者から莫大な借金をしていて、い
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