まりたって、黒川から勧められるまま、金儲けをはかったとしても、別に心境に変化を来したからではない。
黒川は金貸しの仕事を単にビジネスとして考えている。本来そうであるべきだと、私も思う。相手の膏血を絞るというような結果は、借り手の参謀から起ることだ。金融が極端に緊縮されてる現状では、金貸業者の助力によって、倒産を免れる事例もあるし、多大の利益を得る事例もあると、黒川が説明してくれたことを、私も承認する。だから、私が彼の尻馬に乗ったとて、非難されるには当るまい。その上、部隊解散のあの当時と同じく、私は或る意味で彼に助力してやることにもなるのだ。
黒川の言うところに依れば、金貸業者の中には、現在、十日間に二割もの利子を要求する者もあるとのこと。然し、黒川はもっと穏当なのだ。一ヶ月間に三割の利子しか要求しない。その代り手堅い取引きにしか応じない。それでも回収不能なこともままある。だから、私がもし出資してくれたら月に二割までは保証すると言う。それによって、黒川自身も儲かる目安が立つし、私はもちろん儲かる。
ところで、私の方のその資金なのだが、固より手元にはない。然しまあ、二万か三万は自分で拵えなければいけない、と黒川は言う。それから先は容易なのだ。私の会社には、小金を持ってる同僚がいくらもいる筈だし、まあ一万ぐらいなら融通してくれるだろう。学校教員だの下級官僚だのとは違って、小金を握りしめて放さない気風でもあるまい。うまく話をもちかければよろしい。ただ肝要なのは、一カ月以上の期限にはしないことと、期日には必ず返済することだ。その最初の返済のために二三万は作らなければいけない。そして出来た金を、黒川に預けておけば、月に二割の利子は確実に殖える。期日をずらしておけば、利子だけで元金が払えるばかりでなく、雪だるまのように大きくなってゆく。かりに二十人から一万ずつ借りて二十万集めれば、月に四万儲かることになる。同僚へは、僅か一カ月のことだし、利子を払うには及ばないし、煙草の十個もお礼すればよかろう。それでも先方にとっては、銀行利子よりは遙かに上廻るのである。
「このようなこと、ほかへ洩らしてはいけませんよ。あなたの名誉にも関わる。私としては、御恩報じのつもりです。ほかの人がいかほど持って来ようと、断じて引き受けはしない。私は金貸しで、借りる方じゃありませんからね。」
黒川は愉
前へ
次へ
全11ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング