話が変なので、よくきいてみると、別所と野田沢子との結婚には私を媒妁人に立てるんだと、李が一人できめているのであった。
「私は何もかもやめたんです。」と別所は云った。
「それはおかしいじゃないか。恋愛から結婚に行くのは、当然のコースだろう。」
「私は彼女がきらいです。なにも、処女でなければならないということはありません。然し、一度妊娠して流産したような女はいやです。また、やたらに妊娠するような女はいやです。」
なんだか捨鉢な調子だった。それをいろいろ敷衍さしてみると、結局、野田沢子は嘗て或る男と同棲したことがあり、それは構わないが、妊娠して流産したこともあるらしいという、その「らしい」を確定的なこととすれば、他の男との関係で妊娠したような女には生理的に反撥を覚ゆるというのである。また、そうやたらに、この「やたらに」もおかしいが、やたらに妊娠するような女には精神的に反撥を覚ゆるというのである。――これはまあ私にも同感のいく事柄で、反対も出来かねたし、第一、私はまだ野田沢子に一度も逢ったことがなく、ただ、短歌雑誌や婦人雑誌の編輯をエキストラとして手伝ったりしてる女で、顔立は普通、痩せ型の中
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