んこにでも乗った恰好で、ふらりふらり身を揺っていた。境内の淡い照明の光ですかして見ると、なんだか見覚えあるような青年だから、その前で私は立止った。袷の着流しに無帽の彼は、きょとんと顔をあげた。別所だった。
「何をしてるんだい。」
別所は黙って私の顔を見ていたが、立上りもせず腰掛けたままひょいとお辞儀をした。明らかに彼も酔っていた。私ももうその時は、柵の鉄鎖に腰を下していた。ゆらりとして倒れそうになるのを、片手を石柱にかけ足をふんばると、案外に腰掛工合はよかった。
「先生のとこに行こうかと思ってたところですが、ここにひっかかっちゃって……。」
「これから来いよ。」
「ええ。」
だが、そこは酔っ払い同士のことで、腰掛けたまま話しだした。
「君が酔ってるのは珍らしいね。李永泰にでもかぶれたのかい。」
「李が何か……先生に頼むとか云ってましたが、あれはやめて下さい。」
「やめるって……何をだい。」
「先生を媒妁人にするんだと云ってました。」
「ははは、それはよかろう。大いにやるよ。」
別所は、ひどく悄気たようで口を噤んだが、やがてきっぱり断言した。
「然し、私は結婚はしません。」
少し
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