背、髪は短くカールし、派手な洋装をしたりじみな和服をきたりしているという、それだけのことを聞き知ってるに過ぎなかった。だがこの肖像は、「やたらに妊娠する女」とは見えなかったし、またそれを裏書きするような不平を別所は洩らし始めたのだった。
「互に逢っても、愛情のことだとか、心の持ちようとか、そんな方面の話は少しもしないで、支那問題だの、非常時の女の生活だの、世界の情勢だの、戦争論だの、そんなことばかり話す女を、先生はどう思われますか。」
「そりゃあ君、いくら恋愛の仲だって、始終愛情のことばかり話すわけにもゆくまいじゃないか。」
「そんなら、愛情のことは一言も云わないで、やたらに妊娠ばかりする女をどう思われますか。」
「また妊娠問題か。おかしいね。もうおなかに子供でも出来たのかい。」
「そんなことはありません。絶対にありません。けれど、もしそうなった場合は、困ります。」
「なあに、結婚しさえすれば、大いに国策に沿うわけじゃないか。」
「それは別箇の問題です。」
 その、別箇の問題から、話は沢子のことを離れて、急に飛躍してしまった。
「杞憂と事実の問題だよ。」と私は云った。
「そんなら、杞憂
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