ら話せるようなところはありませんが……考えて見ましょう。」
「ああ、頼むよ。五千円出来たら、ほんとに助かる。」
とにかく奔走してみると約束して、良一は辞し去った。玄関で、黒襟の女のひとが、馴れた手付でマントを着せてくれた。
二
良一は狐にでもつままれたような気持だった。元来掴みどころのない川村さんのことではあるが、九度五分の熱、黒襟の女、人をばかにした話、それから五千円……。然し、この五千円だけはどうもまじめらしかった。金のことなんか今迄に一度も口にしたことのない人だけに、よほど困った事情があるのかも知れなかった。
良一は心当りを物色してみた。話してみるようなところは一人きりなかった。それは彼の伯父で、川村さんとも知合いだった。然しそんな話は、伯母さんや家族の人たちの前ではしにくいので、会社の方に行くことにした。他に用もあったので、なか一日おいて、電話できき合せると、四時頃来てくれとのことだった。
丸の内のオフィス街は、冬の四時頃にはもう日の光がなく、退出の会社員等が散乱して、慌しい気分にぬられていた。良一は他国にでも来たような気持で、伯父の会社にはいっていったが
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