じゃないか。」
川俣の噴泉塔のことだなと良一は思ったが、こうなると、少し腹がたった。子供あつかいにばかにされてるような気もしたし、或は川村さんはやはり熱にうかされてるんじゃないかと思った。そして何だか落付がなく、その上、菓子や珈琲をもって、ちょっと顔を出してはまた引込んでゆく、若い美しい女のひとのことがへんに気にかかった。そしていいかげんに帰ろうとした。
その時、川村さんは急にまじめな顔をした。
「実は、君に少し頼みがあるんだが……。」
「ええ。何ですか。」
「金が、五千円ばかりいるんだが……どこか、僕に借してくれるようなところを、心当りがあったら、頼んでみてくれないか。担保になるようなものが何にもないので、全く信用だから、少しむずかしいかも知れないが……。」
良一は眼を見張った。
「ほんとですか。さっきの……湖水や山の話みたいに……。」
「いや、これはまじめな話だ。五千円ぜひいるんだ。もし出来なければ、出来ないだけの覚悟をしなければならない。」
良一は考えこんだ。
「急ぎなんですか。」
「一日も早い方がいいが、いつと期限はきまってはいない。」
「そうですね、五千円なんて、僕か
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