パイが出て来て邪魔しようとしたが、遂に勝利を得た……。
川村さんはぎくりとした。竹山を連れて自動車を走らせた。
家の中はしいんとしていた。上りこむと、母親が真蒼な顔をして、彫像のように坐っていた。
「どうしたんですか。」と川村さんは声をかけた。
彼女はなかなか返事も出なかった。恐らく心は深い淵の中へでも落込んだようで、浮出してくるのに骨が折れたのであろう。ようやくにして彼女は挨拶をして、それから話し初めた。
その日は、穏かな好天気だった。竹山はいつのまにか、母親が隠しておいた例の写真器をとりだして、ひそかに出ていったらしい。そして二三時間たつと、表から勢こんでとびこんできた。
「お母さん、喜んで下さい。研究が出来上りましたよ。これから川村先生をよんできて、いっしょに現像するんです。」
そして彼は写真器を自分の室の卓子の上において、また飛びだしていった。
母親は不安な予感に駆られた。騒ぐ胸を抑えてじっとしていると、茂樹が出ていってから暫くして、のっそりはいりこんできた男があった。一目見て、彼女はあっと声を立てた。夫の茂吉だった。
茂吉はつっ立って、彼女を見据えていた。彼のう
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