ちにはひどく狂暴なものきり認められなかった。
「お前は、茂樹を、よくも立派に育てたな!」
 その一言が、彼女のあらゆる感情を押し潰してしまった。
「茂樹の居間はどこだ?」
 彼女には返事が出来なかった。身動きも出来なかった。
 茂吉はつかつかと横手の室にはいっていった。物をぶっつけ破壊する激しい音がした。それから暫くひっそりとなって、やがてそこらをかきまわす音が続いた。
 長い時間がたったようだった。声をかけられて彼女が顔をあげると、茂吉は死人のような顔色でつっ立っていた。手に小さな拳銃と小さな紙箱とを持っていた。
「これはどうしたんだ?」
 彼女もびっくりした。それはまるで見覚えのないものだった。が彼女がもっと驚いたことには、茂吉の声はもう張りがなくて震えていた上に、拳銃をもってる手がわなわなとおののき、その眼から、はらはらと涙が流れだしたのだった。彼は拳銃をもってる手の甲でその涙を拭いた。そしてなおつっ立っていた。膝頭の震えるのが見えた。それから突然、彼はぎくりとしてあたりを見廻し、逃げるように出ていってしまった。最後に振向いて唇を動かしたようだったが、彼女の耳には何の言葉も達しな
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