とだえると、良一は落付けなかった。それをみて、小鈴は酒をすすめた。
「そうだった、今日は僕の回復祝いだ。出かけよう。知ったところをみんな廻ってやるんだ。」
「だめよ、もう遅いから。いけませんよ。」
小鈴は頭ごなしに押えつけようとしたが、川村さんは駄々をこねだした。話をしながら飲んでいたその酒が、話がすむと共にいちどに発してきたものらしい。小鈴は叱るようにしてなだめるし、川村さんは駄々っ児のようにむちゃを云いだした。
「ごらんなさい、牧野さんが笑ってるじゃありませんか。」
「ははあ、牧野君か、飲んでくれよ、僕の回復祝いだ。」
良一は川村さんのそんなところを初めて見たし、一昨日まで高熱でねていた川村さんのことを思いだしたりして、不思議な気持になると共に、いつしかもう酔っていた。そして自動車で家へ送りとどけられたのは、三時近い頃だった。
十日ばかり過ぎて、良一は川村さんから速達の葉書を受取った。――この葉書読み次第、電話をかけてほしい。とそれだけの、如何にも川村さんらしいものだった。
良一は竹山のことが気になっていたので、近くの自働電話へかけつけていった。川村さんが電話へ出て、隙だ
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