かりうつすものだから、警察の厄介になったことも二度ばかりある。母親からの知らせを受けて、僕が貰いさげてやったが、真実の精神病者でないという説明には弱った。一更になお、彼を説服してその所謂研究をやめさせることは、到底僕の力では出来そうもなかった。警察に連れて行かれたりしたために、彼はばかげた幻影を描いて、自分の研究を邪魔しようとしてる者があると想いこみ、始終スパイにつけねらわれてると考えるようになった。
時機を待つ……或は何かの機会を待つ……それより外に方法はないと思って、それまでのつもりで、ごく僅かなことだが、僕は母親の生活を時々助けてやっている。
ところで、話は少し前に戻るが、竹山のスパイの幻影とならんで、も一つの幻影が描き出されるようなことになった。
六
神明町の崖の上に、もと木戸さんの邸内だったところに、ひどく美事な椎の木がある。それが……ほう、君はもう伯父さんから聞いたのか。実はそのことなんだ。散歩の折、ふと眼についたのだが、僕はとても好きになった。木に惚れこむなんて、おかしいだろうが、古人は、木や石を神にまで祭りあげたことさえある。
僕はその後度々その椎
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