の木の方へ散歩の足を向けた。百坪ほども枝葉をのばして、こんもりと茂ってる、その若々しい大木を見るのは、何とも云えない喜びだった。するうちに、だんだんその木がほしくなって、そのあたりの更地三百坪余りを管理している人のところへ行き、どれほどの値段かなどと、勿論買えやしないが、試みに聞きに行ったものだ。ところが、その家の息子に顔を合わせると、どうだろう。僕の学校の卒業生で、而も僕が教えたことのある男なんだ。
座敷に引っぱり上げられて、いろんな話をし、あの椎の木が好きなことなど、笑い話にもち出したところ、先生なら……ということで、土地の買手がつくまでの条件で、椎の木のところ百二十坪ばかりを借りることになってしまった。そして、子供たちがはいりこんで木に登ったりして遊んでいるのが、木にさわるだろうというので、鉄条網をめぐらしたり、植木屋に手入をさしたり……他人から見たら正気の沙汰ではなかったろう。だが、僕はどんなに嬉しかったか知れない。その上、その木が市の指定木になっていて、個人の勝手にはならないので、そんな不自由な土地を買う者もなかなかあるまいから、僕がもし買うようなら、相当の便宜をはかって貰
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