ていなかったが、時々話をしたり、一寸した質問に応じてやったりしてるうちに、ひどく親しい気持になっていった。
 そして、一年ばかりすると、彼は前から余り快活な方ではなかったが、急に目立って、顔色が悪くなり、神経質になり、憂欝になってきた。身体を大事にするように、度々注意してやった。彼はどこも悪くないと答えて、淋しい微笑を浮べるのだった。そして休むことが多くなった。
 或る日、僕は彼の様子を見てびっくりした。丁度一時間ひまがあって、教授室で書物をよんでいたのだが、その間、彼は自分の卓子に両手をくんでよりかかって、じっと眼を宙に据えている。顔は総毛だって、さわったら石のように冷たそうだ。いつまでも同じ姿勢で動かない。その、宙に据って何にも見えない眼には、不気味な光がただよっている……。
 僕はたまらなくなって、どうかしたのかと尋ねた。彼はけげんそうに顔を見上げたが、ふいに、にっこり笑った。そして、もう何もかも駄目だと云う。その笑いかたと言葉とがまるでちぐはぐで、調和がとれないんだ。心配なことがあるなら、うちあけて話してみないかと、僕はやさしく云ってやった。彼は暫く考えていてから、急につっ立っ
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