て、聞いて下さいますかと、烈しい語調なんだ。
その夕方、約束どおり落合って、僕は彼を鳥屋に案内して、夕食をおごってやりながら、話をきいた。話の調子が少し変で辻褄の合わないところもあったが、大体次のようなことだった。
十年ほど前まで、彼の家は相当に裕福で、父親は或る百貨店の係長の地位を占めていたが、ふとしたことから、赤坂の芸妓に深くなって、めちゃくちゃな生活に陥ってしまった。そしてせっぱつまった揚句、その女と大阪に逃げだして、一年ばかりどうにか暮していたらしい。それから、よく分らないが、その女がまた芸妓に出たとか、或はどこかに勤めに出たとか、まあ堅気な暮しはしていなかったらしいが、情夫をこさえて、彼を顧みなくなった。彼はかっとなって、女を殺そうとして、仕損じて、つかまった。
そうした父親の行跡が、彼と彼の母親の生活に、どういう影響を与えたか、君にも大凡想像出来るだろう。負債と屈辱……、肩身せまく世間を渡りながら、彼は中学二年までは修了したが、もう後は学業も続けられなくなった。夜逃げ同様にして何度も移転した。それでも、母親と彼とは一緒に住み続けた。別々の暮しが出来なかったのだ。そうし
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