」
「なにいいよ。この人と少し話があって、ほかに寄ることになったから、そちらで……。」
「では、そう申しておきましょう。」
良一は気になった。
「誰か、お連れでもあるんですか。」
「うむ……あるような、ないような……。」
川村さんは朗かに笑っていた。
五
良一がつれられていったのは、待合の一室だった。しんみりと落付いた室で、酒をのみながら、川村さんの話をきいた。
僕のつとめてる学校の教授室に、若い給仕がいた。後で分ったことだが、中学二年を卒えたきりで、長らく勉強を中絶していたところ、学校の給仕になってから、また勉強をはじめて、中学卒業の検定をとるつもりだった。隙があると書物ばかり読んでいた。
僕はその男に好感がもてた。先方でも僕を好きだとみえて、僕が著わした小さな詩集に署名を求めたこともあった。僕が時々書く詩だの随筆だのは、見当る限り読んでるとのことだった。
人間の好き嫌いというものは妙なもので、どこがどうと取立てて云うことも出来ない。まだ漠然とした気持の上の事柄だ。僕はその青年が何となく好きだったし、先方でも僕を何となく好きだったらしい。僕は週に三回きり出
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