せられていたのだが、川村さんは一人でのんきに酒をのんでるのだった。一昨日まで高熱でねていた川村さんが、髯をそってさっぱりした顔付になって、元気そうに若々しくなってる。それだけの変事にすぎなかった。
ところが、竹山と川村さんの対話が、まるで謎みたいなものとなっていった。女中が出て行くと、竹山は拳をにぎりしめて口を開いた。
「もう帰りましたか。」
「誰が……連れの人か。」
「ええ。」
「さっき帰ったよ。この通り僕一人。」
「ほんとうですね。」
念をおしておいて、竹山は室の中を見廻した。
「スパイだったんですか。」
「いいや、ちがうよ。」
「ハラゴンですか。」
「いいや。君の知らない人だよ。」
「それじゃあ、大丈夫ですね。」
「心配することはないよ。」
「研究も、椎の木も、無事ですね。」
「無事だとも。安心し給え。僕が請合ってるから大丈夫だ。」
竹山は安堵したように息をついて、にっこり笑った。
「万一の時には、私がついていますから、心配はいりません。」
「ははは、そう気をもまんでもいいよ。」
「然し、先生は、どうも呑気だから、うっかりするとひっかかりますよ。」
「そこは、注意してるよ。
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