が肩をすくめていた。白く引いて流れる息をマントの襟につつんで、彼は茂樹に後れまいと足を早めた。
四
街角《まちかど》を二三度まがって、電車通りにつうずる横町の、構えは小さいが、小綺麗な料理屋の前で、茂樹は立止った。そして内部を窺いながら躊躇していたが、良一の方へ振向いて囁いた。
「ここです。川村さんをたずねてみて下さい。」
「ええ……だが、あなたの名前は……。」
「僕の名前ですって?」
茂樹はじっと良一の顔を見つめた。川村さんの家の前で逢った時と同じような鋭い不気味な光が、眼の中にあった。
「分ってるじゃありませんか。竹山茂樹です。」
良一は中にはいっていって、下足番に、川村さんのことを尋ねた。出て来た女中に、自分たちの名前を通じてもらった。上ってこいとの返事だった。
良一は竹山茂樹をうながして、座敷に通った。
川村さんは酔ってるようだった。二人の顔を見て、頓狂な眼付をした。
「ほう、これは珍らしい。君たちは知り合いなのかい。いつのまに懇意になったんだい。俺にないしょでくっついちゃいかんぞ。」
良一は少々当が外れた気持だった。竹山の言葉によって何か変事を予想さ
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